アルバスストーリー解説
ストーリー解説は、以前遊戯王Advent Calenderの企画の方で、上げましたが、あらためて単品で一応記事にしておこうかなと思います。
プロローグ
―その邂逅は運命か、必然か。
深淵なる世界に刻まれし、追憶の物語。―
1章.邂逅
1章ー1.ドラグマ
「深淵」と呼ばれる大陸の極北、閉ざされた大地に存在する大国「教導国家ドラグマ」。教導の大神祇官を最高指導者とする教会を、国家運営の中心に据えていた。大神祇官は、神像テトラドラグマを通じて、人々に聖痕を施し、国民として迎え入れていた。
このドラグマには、2人の聖女がいた。歴史上初めて額に聖痕を宿した奇跡の子教導の聖女エクレシアと教導の騎士フルルドリス。 エクレシアは、幼少期から教会によって育てられ、朗らかな笑顔と分け隔てない態度、ご飯はよく食べる事から民の敬愛を一身に受ける存在であった。 フルルドリスは、教導軍の騎士長であり、四肢の聖痕に雷撃の力を宿し、剣・盾・鎧の3つの神器を身につけ、邪教徒の殲滅を担っていた。エクレシアとフルルドリスは、エクレシアが幼い時から、時には姉妹のように、時には子弟のように、交流を重ね深い絆を築いてきた。
こうして二人の聖女を中心にしたドラグマは繁栄を極め、秩序と安寧の日々を過ごしていたのだが・・・突如として、彼らの頭上に大きな赫い“ホール”が出現する。この“ホール”は、巨大な異次元の門であり、時には土地や人々を飲み込む災いとして、時には遺物や兵器などをもたらす恩寵として、古よりこの大陸に出現するものであった。ドラグマに表れた"ホール"は後者であろうか。謎の竜がドラグマの聖地を襲わんと飛来したのだった。
謎の存在の襲撃を受け、エクレシアとフルルドリスは、急ぎ現地に向かう。先に空を駆け、謎の存在灰燼竜バスタードと接敵したフルルドリスは、ドラグマの奇跡による雷撃“ドラグマ・パニッシュメント”を、バスタードに向かい放つ。巨大な雷撃により、見事迎撃に成功したフルルドリス。撃墜した竜が堕ちた場所には、エクレシアが向かう。
そして、エクレシアが邂逅したのは、さきほど見えた竜ではなく、一人の少年アルバスの落胤であった。少女は、この状況に困惑しつつ、なぜか理由は分からないが、目の前の少年との邂逅が、何か――運命――であるように感じた。
1章ー2.鉄獣戦線
昔、この大陸では、獣も獣人も鳥も、各種族ごとで1つの部族として存在していた。しかし、限られた資源を巡り、度重なる縄張争いや食糧問題による抗争が絶えなかった。片翼しかなかった「羽なし」シュライグ、かつて同胞を殺めてしまった「同胞殺し」ルガル、そして「泥棒猫」フェリジット、不幸な出自によって、自らの部族からも排斥された3人は、奇跡的な出会いを果たし、部族の壁を越え、明日を生きるため、手を取り合った。やがて徐々に、3人と同じように迫害されたものが、仲間として増えていった。一つの群れとなった彼らは、争い絶えない故郷から遠く離れた鉄の国で、安息の地を得たのだった。
しかし、平和な日々も束の間、今度は、大陸に大きく侵攻を重ねるドラグマによって、崩れ去ってしまう。ドラグマは聖痕を身に宿す事のできない獣人や妖精を、邪教徒として迫害、囚えていた。シュライグを筆頭に彼らは、そんな侵略を重ねる大国へと対抗するために戦いの最前線へと立ち、その寡黙で雄々しき姿は、ついにバラバラだった獣人達の心までも動かし、大きな連合"鉄獣戦線"を結成に繋がっていくのだった。
捕らわれた仲間を解放すべく、鉄獣戦線はドラグマの聖地に侵入する。そんな捕虜奪還作戦のおり、意図しないタイミングで、ドラグマは"ホール"から現れた存在から襲撃を受ける。フェリジットたちが、激しい戦闘の中心に辿り着いた時、そこには膝をつき傷ついた黒衣の少年と、少年をドラグマから庇う聖女の姿があった。
黒衣の少年は記憶がなかった。自分は何者か、何故ここに居るのか、目の前にいる少女は誰なのか。何も分からず、真っ白であった。
なぜか理由は分からないが、少年は、目の前の少女との邂逅が、何か――必然――であるように感じた。
しばらくすると、少年たちの前に、少女と似たような姿の顔を隠した集団が現れ、ほぼ同時に銃器で装備した獣人たちも現れる。両者は、自分たちを挟んだまま対峙する。 明らかに双方友好的ではなく、すぐにも一戦交えそうな重い雰囲気が漂う。 そんな中、少女は互いに争いをやめるよう、説得を試みる。
顔を隠した集団は、少年を引き渡さない聖女へと近づく。彼らはドラグマの信徒であり、神徒。
1.光輝なる神の代理者である大神祇官の聖なる教えに背いてはならない。
66.罪深き邪教の徒を慈しんではならない。
(ドラグマ聖文より抜粋)
ドラグマの、神の理に背くことは、たとえ聖女であっても許されない。そうして彼らは、ドラグマに背いた聖女を弾劾・追放すべく、秘術を行使したのだった。
アルバスは、仮面の集団がエクレシアに向かい、怪しげな術を行使し、額の聖痕が彼女を蝕む姿を見て、驚愕する。
記憶もない、今逢ったばかりの自分を、慈愛の心で庇ってくれた少女。おそらく味方であろう集団に対して、教義に背いてまで庇ってくれた少女が、術をかけられ苦しんでいる。少女を救わなければ。彼女を苦しめるのは、その額の痕か・・・。そう思考した瞬間、彼は聖痕を喰らう金色の痕喰竜ブリガンドへとその姿を変えるのであった。
少女が怪しげな術をかけられ倒れ、そばにいた少年が金色の竜へと変化した。 鉄獣戦線は、侵略を行う大国ドラグマと戦うための組織であり、迫害された者のための組織である。目の前の少年・少女らは、まさしく今、ドラグマから迫害されている、庇護すべき存在だ。鉄獣戦線の戦いが始まる。同士よ、撃鉄を起こせ。侵略の徒よ、戦場に鉄獣の咆哮を聞け—―。
その頃シュライグは、ドラグマの主戦力である騎士長フルルドリスを止めるべく、単騎で動いていた。寡黙な彼は、戦線の戦闘に立ち、言葉ではなく行動で、仲間から尊敬を集めている。シュライグはようやく、"ホール"から現れたバスタードを撃退したフルルドリスを見つけ、強襲をかける。互いの実力は拮抗していた。お互いの仮面が割れ、素顔が露わになる。
そうして戦いを繰り広げているうちに、他の鉄獣戦線のメンバーから、撤退の合図があがる。シュライグは、フルルドリスとの戦いには決着をつけず、撤退していくのであった。
戦いは終わり、鉄獣戦線の面々は、記憶を失った少年アルバスとドラグマから弾劾された少女エクレシアを、自らの生い立ちを重ね、二人を保護するのであった。
2章.冒険
2章ー1.旅のはじまり
二人を保護した鉄獣戦線は、しばしの休息をとっていた。 自分すら信じられない記憶のないアルバスは、本来敵であるはずのエクレシアや自分を救い、優しく接してくれる鉄獣戦線に、次第に信頼を置いていく。
ただ、ここは戦線。いつ追手が来るとも分からない。常にドラグマとの戦いに身を置く彼らは問題ないが、保護した二人は戦いから遠ざけたかった。 シュライグは、二人にここから離れるよう促し、旅先でも困らぬよう鉄獣戦線が身元の保証する証として、鉄獣鳥メルクーリエを渡すのであった。
アルバスとエクレシアは、鉄獣戦線と別れ、財宝が眠るとされる大砂海ゴールドゴルゴンダまで、旅を進めてきた。 幼少期から聖女としてドラグマに育てられてきた少女は、外の世界ははじめてだった。自分で長い髪も結べなくても問題ない生活から、大きく変わってしまった。歩きにくい砂海の地ということもあるものの、外の世界に対する不安が歩みにも現れていた。そんなエクレシアを気遣い、アルバスは手を差し伸べる。そして、そんな二人を覗く影があった・・・
2章-2.スプリガンズ
大砂海ゴールドゴルゴンダは、多くの"ホール"が生まれ、そこから宝が湧き上がる。宝ある所には、それを探し求めるトレジャーハンターも集まる。ゴールドゴルゴンダは、そうしたトレジャーハンターの一団が多くいた。
スプリガンズは、そうしたトレジャーハンターの中でも、燃えることを繰り返す生き方に飽き、新たな"燃え"を追求してゴルゴンダにやってきたものたちで、派手にドンパチするのが生きがいの、機械と融合した集団だった。また、スプリガンズは、かつての故郷で出会ったシュライグから、キットを預けられていた。キットはメカニックであり、技術オタクである。ゴルゴンダで見つかる出土品を解析して、修理もとい改造を施すことが日課である。そんなある時、キットはスプリガンズのその機械との融合化に、一つのアイデアを提案・手を加えた。それにより一層のベストなコンディションとなったスプリガンズは、砂海の中でも郡を抜いて強力な一団となっていた。
そんなスプリガンズは、今日もドンパチする敵や財宝を探し、砂海を監視していた。その時、スプリガンズロッキーは、砂海の崖を歩く見慣れない怪しげな二人組を発見する。 スプリガンズはすぐさま、彼らの捕縛に取りかかる。
突然の襲撃に、アルバスとエクレシアはすぐに捕えられてしまう。彼らを捕縛したスプリガンズだったが、普段の敵とはどうやら違う感じがする。捕まえた少女は泣き出し、捕まえたはいいが、その扱いにスプリガンズも少し困ってしまう。 そんな時、遅れてやってきたキットは、二人の上を飛ぶあるものに気づく。そう、シュライグから渡されたメルクーリエである。
そうして、鉄獣戦線の関係者であると気づき、解放したスプリガンズとキットだったが、ただ解放しても面白くない。 シュライグの関係者なら仲間にできないか、どうせなら入団テストをしよう、そっちの方が面白そうだ。そうして、スプリガンズは、アルバス達の「燃え」を確認するのだった。
アルバスは、自分でもはっきりと知らないのだが、周りの力を取り込み、変身する能力を持っているらしかった。そして、砂海で機械達にいきなり捕まり、いきなり入団テストを受けることになり、「燃え」だのなんだと、こちらもまたなんでそうなったのか、よく分からなかったが、とりあえずスプリガンズ達のドンパチから逃げれば良いらしい、ということだけは分かった。アルバスはその能力で、周りの機械と融合し、空を駆ける鉄駆竜スプリンドになったのだった。
後ろから、スプリガンズの爆撃が迫る。アルバスとエクレシアを乗せたスプリンドがギリギリでそれを回避する。エクレシアの長い髪が風で煽られ、振り落とされないよう捕まるのに必死だった。そんな中、入団テストの中、アルバスは前方に砂海に空いた"ホール"を見つけたのだった。
砂海の"ホール"を前に赤と青がいつもの喧嘩をする中、他のスプリガンズ達は"ホール"に興味深々である。キットは、入団テストに合格したアルバスとエクレシアの手を引く。砂海の"ホール"は、化け物が通ったあとにできる。そして、財宝も眠る。"ホール"に潜るのは、命がけだ。それでも、スプリガンズは、"ホール"にトレジャーハントすることに決める。
ホールを進むスプリガンズ一行。その奥で、無事財宝を見つけた。莫大な財宝を前に、スプリガンズは宝石に目を輝かせ、エクレシアは竜の頭の骨をもってはしゃぎ、キットはアルバスの見つけた古代の技術がつまった破片に目を丸くする。そうして、晴れてアルバスとエクレシアはスプリガンズの一員になったのだった。 しかし、眠っていたのは財宝だけではなかったのだった。この砂海の主、覇蛇大公ゴルゴンダが潜んでいた。
2章ー3.ゴルゴンダと烙印
ゴルゴンダは、ホールのエネルギーにより巨躯に変化し、そして、ホールをも喰らう強大な存在で、ゴルゴンダ自身もエネルギーを放っていた。ゴルゴンダが通ったあとには、"ホール"が生じるほど、巨大なエネルギー体である。
そして、アルバスは周りのエネルギーを取り込み竜化する能力を持っている。ゴルゴンダから発せられた過剰なエネルギーは、その能力を暴走させるのには十分だった。
アルバスは、ゴルゴンダのエネルギーに凶鳴し、烙印竜アルビオンとして暴走状態となってしまう。そして、それを止められるものはいなかった。アルビオンは、ゴルゴンダに牙を剥く。天地をも震わせる両者の戦いは、キットの試作品であるベアブルムを用いても止まらない。
ゴルゴンダとアルビオンとの激闘。どちらが倒れるまでおそらく続くてあろう死闘。絶体絶命かに思えたその時、天から一条の裁きの雷がゴルゴンダを貫いた。
ゴルゴンダは雷を受け倒れた一方で、暴走したアルビオンはまだ止まらない。 燃え盛る炎の中、エクレシアは、アルビオンに手を伸ばす。少年と過ごしたこれまでの冒険、一緒に過ごした時間は確かに短かった。しかし、無口な少年との些細な交流の中で、確かに"絆"は紡がれてきた。
自分がドラグマから追放された時、少年は守ってくれた。
今度は自分が守る番だ。また、これからも一緒に旅をしたい。
その想いが、絆が届き、 烙印竜アルビオンは、静かに黒衣竜アルビオンへと静かに姿を変えていくのだった。
ゴルゴンダの巨躯が倒れた後、スプリガンズの前に、窮地を救ってくれた3人が姿を見せる。彼らは、妹分であり、護るべき聖女だったエクレシアの追放を知り、ドラグマから離反し、その後を追いかけて来たのだった。フルルドリスは神器であった鎧を脱ぎ、聖痕の力を封じていた。しかし、元々の強力な雷撃の力は依然健在だった。
合流したフルルドリス達は、エクレシアと竜の姿アルビオンから戻れないアルバスに、以前修行し、その力を授かった氷水エネルギーを操る相剣の地なら、その姿を戻す方法や暴走しない為の力の制御が出来るかもしれないと告げる。エクレシア達の次の旅先が決まった。
エクレシアは、アルビオンの背にのり、砂海のスプリガンズ達に別れを告げる。エクレシアは、"ホール"で見つけた竜頭の骨を、新たな武器として加工してもらった。それを気に入ったスプリガンズの1人も、新しく旅の仲間として来てくれるらしい。 エクレシアは、一員として認めてくれたスプリガンズに、遠く見えなくなるまで、手を振り続けた。スプリガンズ達もド派手な花火を上げる。彼らの旅路の前途と再び会えることを祈って。
一方、フルルドリス達は、ドラグマの地にこれまでにない異変が起こったことを知る。かつて過ごした地を、民を異変から救うべく、再びドラグマに調査へ戻るのであった。
2章ー幕間.名前
焚き火を囲み、パンをかじりながら、二人は背中あわせで、話す。
「ねぇ…君…」
「…んー、やっぱりいつまでも名前がないと不便だね」
「そうだ、私が名前つけてあげよっか」
「…あぁ」
「何がいいかなぁ…………あっ」
「貴方の名前は、"アルバス"。どうかな?」
「白っていう意味なんだよ」
「白髪の君にぴったり……ね?"アルバス"君」
少女は、少年に贈り物をおくる。真っ白な少年の、穢れない幸福な未来を祈って。
少年は、少女から贈り物を貰う。何もなかった少年が、はじめて貰ったもの。
砂海の寒い夜、アルバスは胸の中に小さな温かさを感じた。
3章.開幕
3章ー1.相剣・氷水
スプリガンズ達と別れたアルバス達は、フルルドリスに聴いた相剣が住む地、大霊峰に来ていた。ところどころ岩肌から何か、黒い水のようなものが見え、その上を水色のしま模様が現れては消えていく。
相剣の地に降り立った二人を待っていたのは、相剣大公承影と純鈞であった。エクレシア達二人はこれまでの旅路、そしてこの地を訪れた事情を話す。それを聴いた承影は、かつて修行を付けたフルルドリス達を思い出し、二人に相剣の力を伝える。
純鈞の角から相剣のエネルギーが流れ来る。それに共鳴したエクレシアとアルバスは、自らの体から湧き上がる白と赤のエネルギーを感じ取る。まだ完全に使いこなせるわけではなさそうだが、それでも確かに一つ良い方向へ進んだことに二人は安堵する。
この霊峰は、降った雪が解け、湧き水として流れ落ち、地下に湖イニオンクレイドルを作る。そこからはエネルギーが人の形を作り、氷水を生み出す。彼らは、透き通った姿で生まれ、時が経つにつれ、黒く冷やされ、また氷水に還る存在だという。
フルルドリスも、昔、強すぎる聖痕に蝕まれた体を癒すため、氷水達の力を借りた。もしかすると、力の暴走を御するヒントがあるかもしれないと、承影は二人に、氷水達が住まう湖を、次の行き先を示す。
3章ー2.デスピア
時はエクレシアが追放された後まで遡る。 聖女が居なくなったドラグマでは、エクレシアに替わる新たな聖女を迎えていた。新たな聖女はあることに必要とされていた。ある意味で、これが新たなドラグマの幕開けであった瞬間かもしれない。
666.福音の日来たりし時、汝らの聖なる烙印は輝き、落とし仔たるその身は天へ還り、再び神の子となるだろう(ドラグマ聖文より抜粋)
大神祇官は天へ向かい、奇跡の力を行使する。供物は神器。フルルドリスが用いていた鎧は剣と盾とともに動き出す。聖女の骸は動き出す。 ドラグマの空に、大きなホールが広がっていく――。
舞台は整った。美しさを誇った聖地ドラグマには、今や禍々しいデスピアの劇城が建っている。大神祇官は大導劇神へと、神徒は凶劇へと、神像は凶像へと、その姿を変える。どこからともなくわらわらとデスピアン達が湧き上がる。鎧には闇が圧縮され、デスピアンクエリティスが産声をあげる。
そして、深淵より生まれ、分かたれた赫い導化は、ようやくとばかりに翼を広げる。仮面の導化は、光を嘲り、闇を欺く。
デスピアクエリティスは、これまで抵抗勢力であった鉄獣戦線の本拠地にて、劇の始まりを告げる。鎧から生まれた化け物には、生まれた時から目的があった。地を這い、爪を伸ばし、羽根の目玉を動かしながら、探す。一体、誰を探しているのだろうか――。
相剣の地にも、デスピアの手は伸びる。 凶劇はこの舞台演者として、新たに相剣軍師龍淵を選ぶ。相剣への、承影への醜い心の内をつかれた龍淵は、やがて闇へ堕ちていく――。
デスピアに堕ちた龍淵は、氷水に浸蝕を開始する。氷水帝コスモクロアは、既に身体の大半が黒く冷却・変色し、自力では動けなくなっていたが、キングフィッシャーに乗り、龍淵の元に向かう。すでにコスモクロアに残された時間は砂時計の如く少ない。ただ、新しい氷水の帝が、生まれたことは幸いだった。氷水の平和と小さな王のために、コスモクロアは動く。
同時に氷水は、相剣にも助力を求める。 共に修行してきた仲間であったはずの龍淵の裏切り。氷水から龍淵の侵攻の一報を受けた承影は急ぎ、その元に向かう。
龍淵は、デスピアの力と相剣の力で七星龍淵へ姿を変え、大蛇の様に蠢く剣で、氷水を蹂躙していた。 そんな龍淵の元へ、コスモクロア、承影が駆けつける。刃を交わす時、承影と龍淵はそれぞれ、これまで過ごした互いのことを深く思い返すのだった。
過冷却水がひとたびの衝撃で、一瞬で凍り付くように、氷水達の命は儚い。七星龍淵との激しい戦闘は、コスモクロアの残り僅かな時間を大きく早めた。氷水に生まれたが故の呪い、この湖の主として生まれたが故の縛り。生まれたばかりの透明なエジルに、最後の言葉を、想いを、そして呪いをエジルに残し、コスモクロアの命の砂粒は、落ち尽くされた。
一方、龍淵と同時に赫の力に覚醒したアルベルは、"ホール"を抜け、氷水の湖を訪れていたアルバスとエクレシアの元に現れる。アルバスは、敵の狙いであるエクレシアにこの場から逃げるよう伝える。また、いつ暴走してしまうかも分からず、その時に傷つけない保証がないのもあった。
エクレシアはアルバスを残すことが心配ではあったが、まだ自身にともに戦える力がないこともわかっていた。湖から離れたエクレシアだったが、その前には無数のデスピアンと凶劇が現れる。そんな絶体絶命の時に駆け付けたのは純鈞であった。エクレシアは、槌を構え、純鈞と共に敵へと向かう。そんな戦場の上、赫い神炎が輝いていた。
"ホール"から現れたアルベルに強襲されたアルバスは、"ホール"の鎖に絡め取られてしまう。アルベルは、アルバスから「白」の力を奪う。窮地に陥るアルバス。しかし、力を奪われても、アルバスには、一つ残されているものがあった。少女から贈られたの自らの名前「白」。心は氷炎を纏い、想いに剣を宿す。
アルバスは、氷の翼と氷剣を纏い、ミラジェイドへと竜化を遂げる。アルベルは、深淵でアルバスと分かれた存在であり、アルベルもまた、アルバスと同じ、竜化の力を持っていた。アルベルは、深淵の神炎を纏い、ルベリオンへと竜化を遂げる。
2体の竜が、対峙する。元々は一つの存在だった。それが元に戻ろうとするかのように、氷と炎が激しく混ざり合う。 その力は互いに拮抗しているように見えた。しかし、アルバスだけは一つ違った。これまでのエクレシアとの旅で経験してきた、取り込んできた竜化のエネルギー。相剣で得たものによって、過去の自分を、力に出来た。
過去の竜を氷の剣へと還る。氷の剣でミラジェイドは、ルベリオンを打倒するのだった。 そして、そのまま承影たちを倒した龍淵と剣を向けるのだった。
一方、デスピアの本拠地に向かったフルルドリス一行は、大導劇神から手厚い歓迎をもてなされる。姿を変えた神の子らが取り囲む。それは、かつてのドラグマの民のなれの果てなのか。フルルドリス達に踊り狂うように襲いくるデスピア達は、さながら、死の舞踏のようであった。求めるは、最後の聖痕。最も剛く、最も聖き烙印二つ。
デスピアの本拠地に変わってしまった場所で、フルルドリスは、剣を振るう。ドラグマの救済と、この悲劇を起こした張本人たる大導劇神に向けた断罪として――。
「やったか!?」。フルルドリスの後ろで二人が叫ぶ。その瞬間、両断した大導劇神の体はドロドロに溶け、クエリティスへと姿を変える。「――ミツケタ」。フルルドリスは、クエリティスに絡めとられてしまう。かつてのドラグマの民の骸が、手を伸ばしてくる。最も剛い烙印は手に入れた。残りは一つ――。
大導劇神は、この淵劇の脚本を練っていた。どうすれば、劇が成功するか、観客の心を震わせられるか。それを考えていた。観客の感情の波が荒ぶる、その波は、大導劇神の心も震わせる。舞台装置が完成し、また一つ劇の演目が進んだ。大導劇神は、姉のような存在であったフルルドリスを捕らえ、エクレシアの眼前に姿を現す。そして、エクレシアの悲しみを、嘆きを、大導劇神はその全身で感じ、打ち震えていた――。
3章ー3.セリオンズ
そんな激しい戦闘が繰り広げられている裏で、キットは砂海で見つけた遺物から、アルビオンに破壊されたベアブルムに変わる秘密兵器の作成を急いでいた。少し前にキットの元へメルクーリエが飛んできた。それは、仲間であるアルバス達に何かあった事のを伝える報せであった。遺物からは、あのゴルゴンダも放っていた"ホール"の力を抽出・技術化できた。その技術を組込み、壊れたベアブルムとスプリンドのパーツを改造し、新たな武装メカを身に纏ったキットは、スプリガンズと共に空を駆け、仲間の救援の為に急ぐのだった。
スプリガンズは、これまで自分達に協力してくれたキットの為、そしてスプリガンズの一員となったアルバス達の為、砂海を離れ、キットと同行する事にした。ただ、今の戦力・装備では何があるか分からない戦いには少し心許ない。キャプテンサルガスは、キットへ更なる強化の為に、寄り道をしたい事を伝える。そうして、キット達はサルガスの出身であるセリオンズへ次の歩みを進める。
セリオンズは、大火山の麓に居を構え、そこから生まれる膨大なエネルギーと資源で成り立っていた。このセリオンズは、高度に発達してはいるが、どこか荒っぽく粗雑な技術で、火口にはケーブルを伸ばし、火山の無尽蔵なエネルギーを直接変換していた。
そして、その根幹をなし、この街を支えているのが無尽機関アルギロシステムである。 火山のエネルギーと資源以外にも、この街には大きな目玉がある。火口から伸びたケーブルの先には、空中に浮かぶ円盤の闘技場があった。火山のエネルギーの大半は、この円盤闘技場の為と言っても過言ではない。娯楽が少ない、刺激が足りない、興奮が、熱狂が足りない。円盤闘技場はそんな者たちの為の施設であり、熱を求める者たちが集う場所である。 そして、そんな円盤闘技場を沸かせる闘技者達がいる。雄牛のブルスアイン、双魚のリーパーファム、巨蟹のデュークユール、牡羊のリリーボレア、そしてこの闘技場のキング、獅子のレギュラスである。
この闘技場のルールは至極簡単、勝者総取り winner take allである。勝者が敗者から装備を頂戴する。そして、敗者の力は勝者に引継がれる。このセリオンズにきた目的もそれだった。 サルガスは、円盤闘技場に立っていた。そして同時に思い出す。かつてこの地で、天蠍のサルガスとして名を馳せたあの時のことを。初めの相手ブルスアインは、一直線にサルガスに向かってくる。サルガスはそれを正面から受け止め、打ち倒す。ブルズアインのドリルと盾を奪ったサルガスに襲い来る次なる刺客は、リーパーファムとデュークユール。飛び魚のように舞い、死神のように刈り取るリーパーファムと、雷龍の如く激しい光線を放つデュークユールの2体の連携を凌ぎ、サルガスはそれをも退ける。
サルガスを最後に待つのは、キングレギュラス。レギュラスは拳1つ、腕っ節だけでこの闘技場の王になった。そんな彼に敬意を評し、サルガスは同じ土俵で挑む。鋼の体がぶつかり合い、火花が煌めく。剛腕と豪腕、純粋な力の応酬にリングの観客も大いに沸き立つ。二人は互角だったが、終わりの時は近かった。 レギュラスとサルガスが交差するように拳を放つ。それは互いの顎に突き刺さり、揺さぶった。
既に二人の体力は限界、堪らず膝をついた。倒れる両者にはこれまでの激闘の傷が刻まれている。カウントが始まる。リング外のキットは、サルガスを応援していた。砂海にいた時の太陽以上の、セリオンズの火山の熱量以上の熱気が、目の前の闘いから発せられているの感じていた。拳を震わせ、再起を願い、キットはサルガスに檄を飛ばすのだった。
To Be Continued